緩和ケアに役立つ:待ち時間を穏やかにするご家庭での音楽活用法
待ち時間を少しでも心地よくするために
介護をしていると、ご家族に「少し待っていてくださいね」とお願いしたり、訪問介護の方を待ったり、食事の準備ができるのを待ったりと、「待つ時間」が生じることが少なくありません。この待ち時間は、待つ方にとっては、不安や落ち着きのなさ、時にはいら立ちにつながることもあります。
こうした待ち時間を、音楽の力を借りて少しでも穏やかに、そして心地よい時間に変えることができるかもしれません。特別な知識や準備は必要ありません。ご家庭にあるものを活用して、手軽に試せる音楽の活用法をご紹介します。
なぜ待ち時間に音楽が役立つのか
音楽には、人の気分に働きかけたり、時間の感覚を和らげたりする力があると言われています。
- 気分の安定: 穏やかな音楽は、不安やそわそわした気持ちを落ち着かせるのに役立つことがあります。
- 時間の感覚: 音楽を聴いていると、体感として時間が早く過ぎるように感じられることがあります。待ち時間が長く感じられにくくなるかもしれません。
- 気晴らし: 音楽に意識を向けることで、待ち時間そのものへの集中が和らぎ、気分転換になります。
- 安心感: 普段から聞き慣れた心地よい音楽は、安心感をもたらし、リラックスを促します。
こうした音楽の特性を活かすことで、待ち時間特有の不快感を和らげ、少しでも心穏やかに過ごすための助けとなる可能性があります。
待ち時間に適した音楽の選び方
待ち時間という状況では、どのような音楽を選ぶかが大切です。以下のような音楽が一般的に適していると考えられます。
- 穏やかで耳障りにならない音楽: テンポが速すぎず、大きな音量の変化が少ない音楽を選びましょう。クラシック音楽(特にバロック音楽など)、ヒーリングミュージック、自然音(小川のせせらぎ、鳥の声など)、環境音楽などが挙げられます。
- 歌詞のない音楽: 歌詞がある音楽は、その内容に意識が向きすぎてしまい、かえって落ち着かなくなる場合があります。歌詞のないインストゥルメンタル(器楽曲)の方が、耳障りになりにくく、背景音として心地よく響くことが多いです。
- ご家族が慣れ親しんだ、心地よいと感じる音楽: 昔好きだった曲や、以前によく聴いていた曲は、安心感をもたらしやすいものです。ただし、悲しい思い出と結びついている曲は避けましょう。
- 単調すぎない、でも刺激的すぎない音楽: あまりにも単調な繰り返しは退屈さを感じさせる可能性がありますが、急な転調や大きな音の変化がある音楽は驚かせたり、いら立ちにつながったりする可能性があります。穏やかながらも、適度な変化があるものが良いでしょう。
選ぶ際には、ご家族のその時の気分や、どのような状況での待ち時間かによって、少し調整することも可能です。例えば、少し気分が落ち込んでいるようであれば、穏やかさの中にもほんの少し明るさのある曲を選ぶなどです。
ご家庭での具体的な音楽の活用方法
それでは、具体的にどのように音楽を待ち時間に活用できるのかを見ていきましょう。
1. BGMとして小さく流す
最も手軽な方法です。ご家族が過ごされている部屋で、音楽をBGMとして小さめの音量で流しておきます。
- 流すタイミング: 待ち時間が始まる少し前から流し始めると、スムーズにその空間に音楽がある状態を作れます。
- 音量: 会話の邪魔にならない程度の、耳障りにならない小さな音量に設定してください。大きすぎるとかえって疲れてしまうことがあります。
- 機器: スマートフォン、CDプレイヤー、タブレット、スマートスピーカーなど、ご家庭にあるもので問題ありません。特別な高音質である必要はありませんが、音割れなどがしない、聞き心地の良い機器を選びましょう。
- 場所: ご家族が座っている場所の近くで、直接音が強く当たらない位置に機器を置くと良いでしょう。
2. 短時間のプレイリストを用意する
待ち時間はそれほど長くないことが多いかもしれません。5分、10分、15分といった短い時間で完結するプレイリストをいくつか作っておくと、状況に応じてすぐに流すことができます。
- 数曲を選んでプレイリストにしておけば、曲が終わるたびに操作する必要がありません。
- 様々な雰囲気の短いプレイリストを用意しておくと、その時のご家族の気分や状況に合わせて選びやすくなります。
3. 意識的に「聴く時間」を作る
ただ流しておくのではなく、「この曲、いい曲ですね」「この音、何の音かしら」などと、ご家族と一緒に少しだけ音楽に意識を向ける時間を作ることも有効です。
- 無理強いは禁物ですが、「ちょっと聴いてみませんか?」と声をかけてみるのも良いでしょう。
- 感想を尋ねてみることで、簡単なコミュニケーションのきっかけにもなります。
4. 自然音を活用する
自然音のCDや、自然音を流せるアプリなども待ち時間には適しています。
- 波の音、雨の音、森の音などは、リラックス効果が高いとされています。
- 人工的な音よりも、自然の音の方が心地よく感じる方も多くいらっしゃいます。
実践する上での大切なポイント
- ご家族の反応をよく観察する: 音楽を流してみて、ご家族がどのような反応を示すか注意深く見てください。嫌がっている様子はないか、落ち着いているように見えるかなど。もし嫌がるようであれば、すぐに止めるか、別の音楽に変えてみましょう。
- 無理強いはしない: 音楽を聴くことは強制するものではありません。あくまでご家族が快適に過ごすための選択肢の一つとして考えてください。
- 期待しすぎない: 音楽療法は魔法ではありません。必ずしも劇的な効果があるわけではありませんが、小さな心地よさをもたらす可能性は十分にあります。過度な期待よりも、「少しでも穏やかになれば」という気持ちで試してみることが大切です。
- 介護される方の状態に合わせる: その日の体調や気分によって、適した音楽や音楽への反応は変化します。柔軟に対応しましょう。
まとめ
介護における待ち時間は、ご家族にとって不快な時間になる可能性があります。音楽を上手に活用することは、その時間を少しでも穏やかに、心安らかに過ごすための一つの手助けとなり得ます。
ご紹介した音楽の選び方や活用方法は、どれもご家庭で手軽に試せるものです。まずは短時間から、ご家族の様子を見ながら始めてみてください。小さな工夫が、日々の介護生活の中に穏やかな時間をもたらすきっかけとなることを願っています。