緩和ケアに役立つ:転倒の不安を和らげるご家庭での音楽活用法
転倒への不安に寄り添う音楽の力
ご家族が転倒するかもしれないという不安は、介護されている方、そしてご本人様にとっても大きな心配事の一つです。この不安から活動が億劫になったり、気分が沈んだりすることもあるかもしれません。
音楽は、このような不安な気持ちに穏やかに寄り添い、心を落ち着かせる手助けとなる可能性があります。もちろん、音楽が転倒そのものを防ぐわけではありませんし、医学的な治療に代わるものでもありません。しかし、不安を和らげ、少しでも心穏やかに過ごすための「緩和ケア」の一つとして、ご家庭で手軽に取り入れることができる方法をご紹介します。
なぜ音楽が転倒への不安に役立つ可能性を持つのか
心地よい音楽には、私たちの心をリラックスさせる効果があることが知られています。不安を感じているとき、心拍数が速くなったり、呼吸が浅くなったりすることがありますが、穏やかな音楽はこれらの状態を落ち着かせるように働きかけます。
また、音楽に意識を向けることで、不安な考えから一時的に注意をそらすこともできます。リズミカルで心地よい響きは、心身の緊張を和らげ、安心感を与えてくれる可能性があります。
転倒への不安を和らげるための音楽活用法
具体的にどのような音楽を、どのように活用できるのでしょうか。ご家庭で簡単に実践できる方法をいくつかご紹介します。
1. 心地よいBGMとして音楽を流す
- 選ぶ音楽: ゆったりとしたテンポのクラシック音楽(例:バッハ、モーツァルトの穏やかな曲)、ヒーリングミュージック、自然音(小鳥のさえずり、波の音など)、本人が昔から好きだった落ち着いた曲などが考えられます。重要なのは、聴く方が「心地よい」「安心する」と感じるかどうかです。不安を煽るような激しいリズムや大きな音量の音楽は避けましょう。
- 流すタイミング: 起き上がる前、椅子から立ち上がる前、部屋の中を少し移動する前など、体を動かすことが予想される少し前からBGMとして小さく流し始めると良いでしょう。また、座って過ごす時間や休憩時間にも、リラックス効果を目的として流すことができます。
- 聴き方: スマートフォンやCDプレイヤー、スマートスピーカーなど、ご家庭にあるもので構いません。音量は小さめに設定し、耳障りにならないように配慮してください。音楽を「聴かせよう」とするのではなく、自然に耳に入るような形で活用するのがポイントです。
2. 好きな音楽を「一緒に」楽しむ
- 選ぶ音楽: ご本人様が若い頃に親しんだ歌謡曲や民謡など、一緒に口ずさんだり、聴きながら昔の話をしたりできる音楽も効果的です。
- 活用方法: 音楽を流しながら、手拍子をしたり、歌詞カードを見ながら一緒に歌ったりする時間を持つことで、音楽そのものだけでなく、ご家族との交流を通じて安心感を得られます。歌うことやリズムに合わせることは、適度な運動になり、自信を取り戻すきっかけにもなりえますが、無理強いは禁物です。あくまで穏やかに、楽しめる範囲で行いましょう。
- 聴き方: 音量を少し上げて、歌詞が聞き取りやすいようにしても良いでしょう。
3. 不安を感じたときに「安心音」として聴く
- 選ぶ音楽: ご本人様にとって特にリラックス効果が高いと感じられる特定の曲や音源を決めておくと良いでしょう。
- 活用方法: ちょっとした段差を越える時や、いつもと違う場所へ移動する前など、ご本人様が不安そうな様子を見せたときに、「この曲を聴いてからにしましょうか」と声をかけ、短い時間でもその安心音を聴く時間を作ることで、気持ちを落ち着けるきっかけになります。
- 聴き方: スマートフォンで手軽に再生できるようにしておくと便利です。必要に応じてイヤホンやヘッドホンを使っても良いですが、周囲の音に注意が必要な場面では避けた方が安全です。
音楽活用における大切なポイント
- ご本人の意思と好みを尊重する: どんな音楽を心地よいと感じるかは人それぞれです。「これが良いですよ」と一方的に決めるのではなく、ご本人様の好きな音楽や、昔どんな音楽を聴いていたかなどを優しく尋ねてみてください。反応を見ながら、心地よさそうな音楽を探しましょう。
- 無理強いしない: 音楽を聴く気分ではない時もあります。音楽療法は「こうしなければならない」というものではありません。あくまで日々の生活に寄り添う、選択肢の一つとして考えてください。
- 環境を整える: 安全に音楽を聴ける環境を確保してください。コードに足を引っ掛けたりしないよう注意が必要です。
- 効果を期待しすぎない: 音楽は魔法ではありません。転倒への不安が完全になくなるわけではありませんが、音楽の力で少しでも心穏やかに過ごせる時間が増えることを目指しましょう。日々の介護の中で、音楽が少しでも息抜きや安らぎの時間をもたらすことができれば幸いです。
転倒への不安は、ご本人様だけでなく、介護する方にとっても大きなストレスとなり得ます。音楽を上手に活用することで、その不安を少しでも和らげ、介護される方・する方双方にとって、より穏やかで安心できる時間が増えることを願っております。