緩和ケアに役立つ:落ち着きのない行動や徘徊傾向を穏やかにするご家庭での音楽活用法
落ち着きのない行動や徘徊傾向と音楽の可能性
ご家族に落ち着きのなさが見られたり、部屋の中を繰り返し歩き回ったり、外へ出ようとしたりといった徘徊傾向が見られると、介護する方にとっても、そしてご本人にとっても、心身の負担が大きくなることがあります。このような行動の背景には、不安、寂しさ、環境の変化、身体的な不調など、様々な原因が考えられます。
これらの行動を完全に止めることは難しい場合もありますが、音楽の力を借りることで、少しでも穏やかな時間を作り出し、ご本人や周囲の方の気持ちを落ち着かせる助けになる可能性があります。音楽には、人の感情や注意に働きかける力があり、適切に活用することで、状況の緩和につながることが期待できます。
この記事では、ご家庭で特別な準備なく、手軽に実践できる音楽の活用方法についてご紹介します。
落ち着きのない行動や徘徊傾向が見られる時に試したい音楽の活用方法
落ち着きのない行動や徘徊傾向への音楽の活用は、主に「気持ちを落ち着かせる」または「注意を音楽に向けることで、望ましくない行動から一時的にそらす」ことを目指します。
1. 穏やかなBGMを流す
- どのような音楽?
- テンポがゆっくりで、歌詞のないインストゥルメンタル(楽器演奏のみ)の音楽が適しています。
- クラシック音楽(バロック時代の音楽など、ゆったりとしたリズムのもの)、自然音(波の音、小鳥のさえずり、雨の音など)、またはヒーリングミュージックと呼ばれるジャンルの音楽などが考えられます。
- 本人が以前から聞き慣れていて、落ち着く様子が見られる音楽があれば、それが最も効果的かもしれません。ただし、若い頃の活発な思い出と結びついた音楽よりも、より穏やかな雰囲気の音楽がこの目的には向いていることが多いです。
- どのように使う?
- 落ち着きがなさそうに見える時や、特定の時間帯(夕方など、落ち着きがなくなることが多いとされる時間帯)に合わせて、部屋全体に小さく流します。
- 音量は、会話の邪魔にならない程度のごく小さな音量で十分です。大きすぎるとかえって刺激になり、落ち着きを妨げる可能性があります。
- ポイント
- 無理に聴かせようとせず、生活音の一部として自然に流すのがコツです。
- 本人の反応をよく観察し、もし音楽を嫌がるようであれば、すぐに止めてください。
2. 注意をそらすための音楽
- どのような音楽?
- 1と同様に穏やかな音楽が基本ですが、本人が少し注意を向けやすいような、耳馴染みのあるメロディーの曲なども試してみる価値があります。
- どのように使う?
- 特定の場所へ移動しようとするなど、落ち着きのない行動が見られた際に、「ちょっとこの音楽を聴いてみませんか?」などと優しく声をかけ、一緒に音楽を聴く時間を作ります。
- スマートフォンの小さなスピーカーや、ポータブルプレイヤーなどで、本人の近くで短時間流してみるのも良いでしょう。
- ポイント
- これは一時的な対応策として考え、音楽に注意が向いたら、座るように促したり、他の穏やかな活動(お茶を飲むなど)へつなげたりすることを試みてください。
- ヘッドホンやイヤホンは、周囲の状況が把握しにくくなるため、安全性の観点から避けた方が良いでしょう。
3. 一緒に歌う・手拍子をする
- どのような音楽?
- 本人が若い頃に流行した歌や、童謡、唱歌など、メロディーが覚えやすく、一緒に歌いやすい曲が適しています。
- どのように使う?
- 落ち着きのない様子が見られる時に、「この歌、知っていますか?」「一緒に歌ってみませんか?」などと声をかけ、一緒に歌ったり、リズムに合わせて手拍子をしたりしてみます。
- 歌うこと自体が、適度な活動となり、気分転換につながる場合があります。
- ポイント
- 無理強いは禁物です。本人が少しでも興味を示した場合に、楽しく行うことが大切です。
- 声が出にくい場合でも、口ずさんだり、手拍子をしたり、体を揺らしたりするだけでも効果がある場合があります。
実践する上での大切なポイント
- 本人の反応を観察する: 音楽を流している時のご本人の表情や行動を注意深く観察してください。落ち着いているか、嫌がっていないかなどを確認することが最も重要です。
- 無理強いしない: 音楽が全ての人に、また全ての状況に効果があるわけではありません。もし明らかに嫌がったり、かえって興奮したりするようであれば、すぐに中止してください。
- 継続と試行錯誤: 一度で効果が見られなくても、時間帯や音楽の種類を変えて何度か試してみる価値はあります。また、効果があった場合でも、継続することでより良い影響が期待できることがあります。
- 安全な環境で行う: 音楽に夢中になるあまり、転倒などの事故が起きないよう、周囲の環境には十分に配慮してください。
- 他のケアと組み合わせる: 音楽はあくまで緩和ケアの一つのツールです。専門家への相談や、他のケア方法(声かけ、タッチケア、環境調整など)と組み合わせて行うことで、より良い結果につながる可能性があります。
音楽は穏やかな時間への一歩
落ち着きのない行動や徘徊傾向は、介護する方にとって大きな負担となり得る課題です。しかし、音楽の力を借りることで、少しでも穏やかな時間を作り出し、ご本人と介護する方の双方にとって、心安らぐひとときをもたらすことができるかもしれません。
ここでご紹介した方法は、特別な知識や機材を必要とせず、ご家庭にあるもので手軽に始められるものばかりです。完璧な解決策ではないかもしれませんが、まずは試してみることから、穏やかな時間への一歩が始まることを願っております。ご本人のペースに合わせて、焦らず、優しく音楽を生活に取り入れてみてください。