緩和ケアに役立つ:認知機能の維持・活性化を促すご家庭での音楽活用法
認知機能と音楽の繋がり
年齢とともに、記憶力や集中力といった認知機能の変化を感じる方は少なくありません。また、病状の進行や環境の変化が、認知機能の低下に影響を与えることもあります。こうした状況において、日々の暮らしの中で無理なく取り入れられる緩和ケアの一つとして、音楽の活用が注目されています。
音楽を聴いたり、歌ったり、楽器に触れたりすることは、脳の様々な領域を同時に活性化させると言われています。特に、馴染みのある音楽は、過去の記憶と結びつきやすく、脳に心地よい刺激を与える可能性があります。専門的な音楽療法のように体系化されたプログラムではなくとも、ご家庭で音楽を取り入れることで、認知機能の維持や活性化を穏やかにサポートすることが期待できます。
この記事では、ご家庭で手軽に実践できる、認知機能の維持・活性化に役立つ音楽の選び方や活用方法についてご紹介します。
認知機能の維持・活性化に役立つ音楽の選び方
どのような音楽が良いかは、個々の状況や好みに大きく左右されますが、一般的に認知機能への働きかけが期待できる音楽の選び方にはいくつかヒントがあります。
- 馴染みのある音楽: 幼い頃に歌った童謡や唱歌、青春時代に流行した歌謡曲、聴き慣れたクラシック音楽など、その方がよく知っている、または好きだった音楽は、過去の記憶を呼び起こしやすく、脳に良い刺激を与えます。メロディーや歌詞を思い出す作業自体が、脳の活性化につながります。
- 心地よいと感じる音楽: ジャンルに関わらず、聴いていてリラックスできる、心が安らぐ、あるいは少し気分が明るくなるような音楽を選びましょう。心地よさは脳への肯定的な働きかけにつながります。
- 適度なリズムのある音楽: 少しテンポの良い、規則的なリズムを持つ音楽は、脳の活動を促す可能性があります。ただし、速すぎたり複雑すぎたりする音楽は、かえって負担になることもあるため、穏やかなリズムを選ぶのが良いでしょう。クラシック音楽の中には、モーツァルトやヴィヴァルディのように、明快なリズムを持つ曲が多くあります。
- 自然音や環境音: 川のせせらぎ、鳥の声、波の音といった自然音や、カフェの賑わいのような環境音も、脳に異なる刺激を与え、リラックス効果や集中力を高める効果が期待できる場合があります。
特定の音楽ジャンルにこだわる必要はありません。最も大切なのは、聴く方が「嫌ではない」「心地よい」と感じる音楽を選ぶことです。
ご家庭での具体的な音楽活用方法
特別な知識や機材がなくても、ご家庭にあるもので音楽を認知機能のケアに活用できます。
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BGMとして流す:
- 方法: 日中の活動時間帯(午前中など、比較的覚醒している時間)に、心地よいと感じる音楽を小さな音量でBGMとして流します。
- ポイント: テレビの音量に負けない程度で、会話の邪魔にならない程度の音量が目安です。部屋全体に穏やかに音楽が流れるようにします。
- 効果: 脳に適度な刺激を与えつつ、安心できる空間を作り出すのに役立ちます。
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一緒に歌う・口ずさむ:
- 方法: 馴染みのある童謡や唱歌、歌謡曲などを流し、一緒に歌ったり、口ずさんだりします。歌詞カードを見ながらでも良いでしょう。
- ポイント: 声を出すことは、呼吸器系だけでなく脳にも良い影響を与えます。歌詞を思い出そうとする作業も、記憶力のトレーニングになります。楽しむことが一番大切です。
- 効果: 記憶力の活性化、感情表現の促進、脳の多方面への刺激が期待できます。
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リズムに合わせて体を動かす:
- 方法: リズムのはっきりした音楽を流し、音楽に合わせて手拍子をしたり、足踏みをしたり、座ったままで体を揺らしたりします。
- ポイント: 無理のない範囲で、座ってできる簡単な動きから始めましょう。大きな動きをする必要はありません。
- 効果: リズム感や運動機能への刺激、脳と体の連携を促す可能性があります。
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音楽をきっかけに会話する:
- 方法: 流している曲について「この曲、聴いたことある?」「いつ頃流行った曲だったかな?」「どんな思い出がある?」などと話しかけてみます。
- ポイント: 昔の曲であれば、当時の出来事や思い出話につながりやすく、自然な形でコミュニケーションが生まれます。無理に答えを求めず、穏やかな雰囲気で会話を楽しみましょう。
- 効果: 記憶の想起を促し、コミュニケーション能力の維持・向上に役立ちます。
実践上のヒントと注意点
- 本人の状態を観察する: 音楽を流したり活動したりする際は、本人の表情や反応をよく観察しましょう。嫌がっている様子や、かえって落ち着かなくなるようであれば、すぐに中止するか、別の音楽や方法を試してください。
- 流す時間帯を工夫する: 午前中や午後早めなど、比較的集中力があり、活動的な時間帯に音楽を取り入れるのがおすすめです。夜間はリラックスできる穏やかな音楽に留める方が良いでしょう。
- 音量と環境: 音量は大きすぎるとかえって刺激が強すぎたり、聴き取りにくかったりします。静かで落ち着ける環境で、心地よいと感じる音量で聴くことが重要です。
- 無理強いしない: 音楽活動は、あくまで本人が快適に、楽しめる範囲で行うことが大前提です。義務感で行うのではなく、日々の潤いとして自然に取り入れられるのが理想です。
- 特定の症状への効果を保証するものではない: ここで紹介する方法は、医療行為に代わるものではありません。音楽はあくまで日々の生活の質を高め、穏やかな時間を作るための一つの手段として捉えてください。
まとめ
ご家庭で音楽を上手に活用することは、認知機能への穏やかな働きかけだけでなく、日々の生活に彩りを与え、本人だけでなく介護する方の心も癒すことにつながります。馴染みのある音楽、心地よい音楽を選び、BGMとして流したり、一緒に歌ったり、体を動かしたりしながら、無理なく、そして楽しく音楽を取り入れてみてください。毎日の小さな音楽の時間が、穏やかで心豊かなひとときとなることを願っています。