緩和ケアに役立つ:そわそわして落ち着かない時のご家庭での音楽活用法
そわそわした落ち着かない時に音楽が役立つ理由
ご家族の介護をされている中で、被介護者様がそわそわと落ち着きなく過ごされている様子を見かけることがあるかもしれません。目的なく動き回ったり、手元を絶えず気にされたり、呼びかけへの反応が乏しくなったりと、その様子は介護されている方にとって心配や対応への難しさを伴うものです。このような「落ち着かない」状態は、心身の不快感や不安、状況への戸惑いなどが原因となっている場合があります。
音楽は、聴く方の心や体に穏やかに働きかけ、このような落ち着かない状態を和らげる手助けとなる可能性を秘めています。耳から入る音の情報は、注意をそわそわしている対象から別のものへ向けさせたり、心地よいリズムやメロディーが自律神経に働きかけ、リラックス効果をもたらしたりすることが知られています。特別な訓練は不要で、ご家庭にある機器と少しの工夫で実践できる方法をご紹介します。
どのような音楽を選べば良いか
落ち着かない気持ちや行動を穏やかにするために適した音楽は、その時の状況や被介護者様のお好みによっても異なりますが、一般的には以下のような特徴を持つ音楽が推奨されます。
- ゆったりとしたテンポの音楽: 心拍数に近い、またはそれよりも少し遅いテンポ(1分間に60〜80拍程度)の音楽は、聴く方をリラックスさせ、穏やかな気持ちに導きやすいとされています。
- 耳馴染みのある、心地よいと感じる音楽: 被介護者様が生きてこられた中で慣れ親しんだ音楽、例えば若い頃に流行した曲や、家族でよく聴いていた曲などは、安心感をもたらし、穏やかな気持ちを引き出しやすい場合があります。歌詞のないインストゥルメンタル曲も、余計な情報が入らず集中しやすい場合があります。
- 自然音や環境音楽: 波の音、鳥のさえずり、雨の音といった自然の音や、特定の情景をイメージして作られた環境音楽、ヒーリングミュージックなどは、心を落ち着かせ、リラックス効果を高めることが期待できます。
注意点として、いきなり全く知らない音楽を流すよりも、まずは被介護者様が過去に聴いたことがあるかもしれない音楽や、多くの人が「心地よい」と感じやすい普遍的な音楽から試してみるのが良いでしょう。新しい音楽を試す場合は、まずは短い時間から始めて様子を見ることをおすすめします。
落ち着かない時に音楽をどのように活用するか
落ち着かない気持ちや行動が見られる際に、音楽をご家庭で活用するための具体的な方法をいくつかご紹介します。
- BGMとして流す:
- リビングや被介護者様が過ごされる場所に、ゆったりとした音楽を小さめの音量でBGMとして流しておきます。これは、特定の時間に集中して聴くのではなく、空間全体を心地よい音で満たすことで、無意識のうちにリラックス効果を促す方法です。
- 特に夕方など、一日の中で落ち着かなくなる傾向がある時間帯に合わせて流し始めるのも有効です。
- 特定のタイミングで意識的に聴く:
- そわそわとした様子が始まった時や、場所を移動する際など、特定のタイミングで意識的に音楽を流します。
- 被介護者様がお好きな曲や、安心できると感じる曲を数曲用意しておき、状況に合わせて選びます。
- もし可能であれば、「〇〇さんの好きな曲を聴きましょうか?」と声をかけながら流すと、音楽への注意を向けやすくなる場合があります。
- ヘッドホンやイヤホンを活用する(可能な場合):
- 周囲の音や情報が多い環境で落ち着かない様子が見られる場合、ヘッドホンやイヤホンで音楽を聴くことで、外部の刺激を遮断し、音楽に集中することで落ち着きを取り戻しやすくなる場合があります。ただし、ヘッドホンなどが苦痛に感じられる場合や、周囲の状況把握が難しくなり危険を伴う場合は避けてください。
- 一緒に歌う・音楽に合わせて軽く体を動かす:
- もし被介護者様が歌うことがお好きであれば、知っている歌を一緒に歌うことも非常に効果的です。歌うことは呼吸を整え、心身のリラックスにつながります。
- また、音楽のリズムに合わせて軽く手足を動かしたり、体を揺らしたりすることも、心地よい刺激となり、落ち着きを取り戻す手助けになることがあります。
実践する上でのポイント
音楽を活用する際には、いくつかの点に注意することで、より効果を高め、安全に行うことができます。
- 音量に注意する: 大きすぎる音量はかえって刺激となり、落ち着きを妨げる可能性があります。会話ができる程度の、耳に心地よいと感じる音量を心がけてください。
- 環境を整える: 可能であれば、音楽を流す場所は落ち着いた、安心して過ごせる空間が望ましいです。テレビや他の騒音は控えめにし、音楽に意識を向けやすい環境を作ります。
- 被介護者様の様子を観察する: 音楽を流してみて、被介護者様の表情や行動にどのような変化があるかをよく観察してください。心地よさそうにしているか、かえって不快そうにしていないかなど、反応を見ながら音楽の種類や音量を調整することが大切です。もし嫌がる様子があれば、無理強いせず、一旦中止しましょう。
- 無理なく続ける: 音楽の活用は、すぐに劇的な効果が現れるとは限りません。日々の生活の中に自然な形で取り入れ、無理なく続けることが大切です。介護の合間に、介護されている方も一緒にリラックスできるような音楽を選ぶのも良いでしょう。
まとめ
介護中に見られるそわそわとした落ち着かない気持ちや行動は、介護されている方、介護する方双方にとって大変な負担となり得ます。音楽は、その穏やかな力で、このような状況に寄り添い、心地よい時間をつくる手助けとなる可能性があります。
ゆったりとしたテンポの耳馴染みのある曲や自然音などを、BGMとして流したり、特定のタイミングで意識的に聴かせたりすることで、心身のリラックスを促し、落ち着きを取り戻しやすくなることが期待できます。音量や環境に配慮し、被介護者様の様子を丁寧に観察しながら、ご家庭でできる範囲で試してみてください。
音楽は、医療的な診断や治療に代わるものではありませんが、日々のケアの中に穏やかな彩りをもたらし、被介護者様と介護される方の両方にとって、少しでも心地よい時間が増えることを願っています。