緩和ケアに役立つ:幻覚や幻聴による混乱を穏やかにするご家庭での音楽活用法
ご家庭でのケアにおける幻覚や幻聴への向き合い方
ご家庭での介護において、大切な方が現実にはないものを見たり、聞こえないはずの音を聞いたりすることがあるかもしれません。これは幻覚や幻聴と呼ばれ、ご本人にとってはもちろん、そばで支える方にとっても、どのように対応すれば良いか戸惑う原因となることがあります。混乱や不安が強まり、落ち着きを失ってしまうことも少なくありません。
このような状況は、様々な要因によって起こり得ますが、ご家庭でできるケアの一つとして、音楽の活用が注目されています。音楽は、単なる娯楽としてだけでなく、心や脳に穏やかに働きかけ、感覚の混乱を和らげる手助けとなる可能性があるからです。
音楽が幻覚や幻聴にどのように作用するか
幻覚や幻聴は、脳が外部からの情報と内部の情報をうまく区別できなくなった結果として起こることがあります。音楽を聴くことは、耳から入る確かな刺激となり、ご本人の注意を内部の感覚(幻聴など)から、外部の心地よい音へと穏やかにそらす効果が期待できます。
また、音楽には気分を落ち着かせたり、安心感を与えたりする力があります。不安や混乱からくるそわそわ感を和らげ、少しでも穏やかな状態へと導くことが期待できます。
どのような音楽を選ぶか
幻覚や幻聴による混乱を和らげる目的で使用する場合、音楽の選び方が重要になります。
- 穏やかで予測可能な音楽: 突拍子のない変化が少なく、ゆったりとしたテンポの音楽が適しています。クラシック音楽(特にバロック時代の楽曲など)、ヒーリングミュージック、環境音楽などが挙げられます。自然音(波の音、鳥の声、雨の音など)も心地よさを提供し、耳からの刺激として有効な場合があります。
- ご本人が好んだ、または親しんだ音楽: 過去の良い思い出と結びついた音楽は、安心感をもたらしやすい傾向があります。ご本人が若い頃によく聴いていた曲や、家族との楽しい思い出の音楽などを選ぶと良いでしょう。ただし、歌詞の内容によっては感情を刺激しすぎる可能性もあるため、穏やかなインストゥルメンタル(歌のない楽曲)から試してみるのも一つの方法です。
- 避けたい音楽: リズムが激しい音楽、歌詞の内容が攻撃的・悲しいもの、不快な記憶と結びついている可能性のある音楽は避けるようにしてください。
どのように音楽を活用するか
音楽を聴かせる際の方法も大切です。
- BGMとして穏やかに流す: 大音量で聴かせるのではなく、お部屋のBGMとして、耳に心地よく入る程度の音量で流します。強制的に聴かせるのではなく、自然な形で音楽がそばにある状態を目指します。
- 状況に応じて活用する: 不安や混乱が見られるときに音楽を流し始めたり、落ち着いて過ごしてほしい時間帯(例:夕方、夜間)に習慣として取り入れたりします。
- ご本人の反応を観察する: 音楽を流してみて、ご本人の表情や様子を注意深く観察してください。心地よさそうにしているか、かえって落ち着かなくなる様子はないかを確認します。もし嫌がるそぶりを見せたり、不快そうに見えたりする場合は、すぐに音楽を止めるか、別の種類の音楽に変えてみましょう。
- 他のケアと組み合わせる: 声かけや、手をつなぐ、背中をさするといった穏やかな触れ合いと音楽を組み合わせることで、より安心感を与えることができます。
- 介護者自身も音楽を聴く: 介護する方がリラックスし、落ち着いた状態でいることも、ご本人に安心感を与える上で非常に重要です。ご自身の気持ちを穏やかに保つために、一緒に音楽を聴く時間を持つことも有効です。
実践のヒント
- 簡単な再生機器で十分: スマートフォンやタブレット、CDプレイヤーなど、ご家庭にある一般的な機器で十分です。複雑な操作は必要ありません。
- プレイリストを作成する: いくつかの穏やかな曲を集めたプレイリストを作っておくと、すぐに流すことができて便利です。
- 無理強いはしない: 音楽を聴くことは強制するものではありません。ご本人のその時の気持ちや状態を尊重し、無理のない範囲で試みてください。
まとめ
幻覚や幻聴は、ご本人だけでなく、介護する方にも大きな負担となり得ます。音楽は、これらの感覚的な混乱に対して、注意をそらし、安心感をもたらすことで、穏やかな時間を取り戻すための一助となりうるものです。
ご紹介した方法は、ご家庭で手軽に実践できるものが中心です。どのような音楽がご本人にとって心地よいかは人それぞれ異なりますので、試しながら、その方に合った音楽や活用方法を見つけていくことが大切です。
音楽はあくまで緩和ケアにおけるサポートの一つであり、医学的な診断や治療に代わるものではありません。症状についてご心配な点がある場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。日々のケアの中で、音楽が少しでも穏やかな時間をもたらす手助けとなれば幸いです。