緩和ケアに役立つ:介護中の特定の音への不快感を穏やかにする音楽活用法
介護中に気になる特定の音への不快感を穏やかにする音楽活用法
ご家庭での介護において、ご本人様が特定の音に対して不快感を示されたり、落ち着きをなくされたりすることがあるかもしれません。医療機器の音、生活の中のさまざまな音、あるいは外部からの予期せぬ音など、これらがご本人様にとってストレスの原因となることがあります。
このような状況は、聴覚の変化や環境への慣れ、あるいは心身の状態によって引き起こされる可能性があります。ご本人の不快感を少しでも和らげ、より穏やかな時間をお過ごしいただくために、音楽の力を活用する方法があります。ここでは、介護中に気になる特定の音への不快感を穏やかにするための音楽活用法についてご紹介いたします。
音楽が不快な音を和らげる仕組み
音楽が不快な音を和らげる、という考え方には、いくつかの側面があります。一つは、心地よい音楽で空間を満たすことで、注意が不快な音から音楽へと自然にそらされるという効果です。また、予測可能で心地よい音の連続は、心に安心感をもたらし、周囲の気になりやすい音に対する敏感さを和らげる可能性があります。
重要なのは、不快な音を無理に「消す」のではなく、心地よい音の存在によって、その不快な音に対する意識や反応を穏やかに変化させるというアプローチです。
どのような音楽を選ぶか
気になる特定の音を穏やかにするために適した音楽は、状況やご本人様の好みによって異なりますが、一般的には以下のような種類の音楽が推奨されます。
- ご本人の思い出の音楽: 過去に親しみがあり、良い思い出と結びついている音楽は、深い安心感とリラックス効果をもたらします。ご本人様の好きなジャンルや特定のアーティストの曲などを試してみてください。ただし、歌詞の内容によってはかえって気分を乱す場合もありますので、穏やかな曲調のものがおすすめです。
- 自然音: 小川のせせらぎ、鳥のさえずり、雨の音、波の音など、単調で心地よい自然音は、心を落ち着かせ、周囲の雑音から注意をそらすのに役立ちます。自然音だけを集めたCDや配信なども利用できます。
- ゆったりとしたテンポのクラシック音楽: バロック音楽(例:バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディ)や、古典派、ロマン派の緩やかな楽章などは、規則的なリズムと美しい旋律が心地よさをもたらします。特に、ピアノや弦楽器の音色が穏やかな印象を与えることが多いです。
- ヒーリングミュージックや環境音楽: 特定の目的(リラクゼーション、集中など)のために作られた音楽です。単調で繰り返しの多いメロディーや、アンビエント系のサウンドは、聴覚を刺激しすぎずに穏やかな音環境を作り出すのに適しています。
避けるべき音楽としては、急な音量変化があるもの、激しいリズムのもの、歌詞が多くて注意を引きつけすぎるものなどが挙げられます。ご本人様のその時の状態に合わせて、穏やかで予測可能な音楽を選ぶことが大切です。
音楽の活用方法
音楽をどのように使うかによっても、その効果は変わってきます。
- BGMとして小さく流す: 最も手軽な方法です。気になる音が発生しやすい時間帯や、ご本人様が落ち着きなく過ごされがちな時間帯に、部屋全体に小さめの音量で流します。ご本人様が意識的に「聴く」というより、心地よい音環境の中で過ごしていただくイメージです。
- 特定のケアの前に流す: 例えば、特定の医療機器を使う前など、ご本人がその音を気にされる可能性があるケアの開始の合図として、短時間音楽を流すのも一つの方法です。音楽の始まりが、これから始まるケアへの心の準備を促し、同時に音への意識をそらす効果が期待できます。
- パーソナルに聴く(イヤホン・ヘッドホンは注意が必要): 環境音を遮断するためにイヤホンやヘッドホンを使いたいと思われるかもしれませんが、長時間の使用や、ご本人様が自分で着脱できない状況では、耳への負担や周囲の状況を把握しにくくなるリスクがあります。短時間のごく限られた状況で、安全に配慮して使用を検討するか、耳を塞がないタイプのヘッドホンなどを試すのが現実的かもしれません。一般的には、部屋全体に穏やかに流す方法がより安全で手軽です。
音楽を流す機器は、スマートフォンとスピーカー、CDプレイヤーなど、ご家庭にあるもので十分です。スピーカーは、ご本人様の耳元から少し離れた場所に設置し、直接的な音の刺激にならないように配慮してください。
実践のポイント
- ご本人様の反応をよく観察する: 音楽を流してみて、ご本人様がどのような反応を示すかを注意深く観察してください。リラックスしている様子か、かえって嫌がる様子はないかなど、変化を見逃さないことが重要です。
- 無理強いしない: もし音楽を嫌がる素振りを見せたり、効果がないようであれば、無理に続ける必要はありません。別の種類の音楽を試すか、その日は音楽を使わないなど、柔軟に対応してください。
- 音量に注意する: 音量が大きすぎると、かえって刺激となり、逆効果になることがあります。小さく、耳に心地よく届く程度の音量に調整してください。
- 介護する方も一緒にリラックス: 介護されるご家族だけでなく、介護する側のご家族も心地よいと感じる音楽を選ぶことも大切です。介護者の心の状態も、ご本人様に影響を与えます。
まとめ
介護中にご本人様が特定の音に対して不快感を示される場合、音楽は穏やかな音環境を作り出し、不快な音から注意をそらすための一つの有効な手段となり得ます。ご本人の好みや状況に合わせた穏やかな音楽を選び、BGMとして流すなど、手軽な方法から試してみてください。
音楽は医学的な治療に代わるものではありませんが、日々の介護に彩りと安らぎをもたらし、ご本人様とご家族様にとって、より穏やかで心地よい時間を作るための一助となることを願っております。