緩和ケアに役立つ:移動や乗り物での不快感を穏やかにするご家庭での音楽活用法
移動や乗り物での時間、音楽で少しでも穏やかに
ご自宅での介護において、通院やちょっとした外出などで移動や乗り物を利用する機会があるかもしれません。慣れない場所への移動や、乗り物特有の揺れや騒音、閉塞感などが原因で、普段よりも落ち着きがなくなったり、不安を感じたり、身体的な不快感を覚えたりすることがあります。
このような、いつもと違う状況での心身の負担を少しでも和らげるために、音楽の力を借りてみるのはいかがでしょうか。音楽は、耳から入る心地よい刺激として、気分転換を促したり、リラックス効果をもたらしたりする可能性を秘めています。
このコラムでは、移動や乗り物での不快感を穏やかにするために、ご家庭で手軽に実践できる音楽の活用方法をご紹介します。
移動や乗り物での不快感に寄り添う音楽の選び方
移動中や乗り物に乗っているときに聴く音楽は、その時の状況や本人の状態、好みに合わせて選ぶことが大切です。以下のような種類の音楽がおすすめです。
- 心身をリラックスさせる静かな音楽: ゆったりとしたテンポのクラシック音楽(モーツァルトやバッハなど)、自然音(波の音、小川のせせらぎなど)、ヒーリングミュージックなどが挙げられます。これらの音楽は、副交感神経に働きかけ、心拍数や呼吸を落ち着かせる効果が期待できます。移動や乗り物による緊張感を和らげるのに役立つでしょう。
- 慣れ親しんだ穏やかな音楽: 若い頃によく聴いていた歌謡曲、童謡、唱歌など、本人にとって思い出深く、心地よいと感じる音楽です。聴き慣れた音楽は安心感を与え、過去の楽しい記憶を呼び覚ますことがあります。不安な気持ちを紛らわせ、穏やかな気分に導く手助けとなるでしょう。
- 規則的なリズムを持つ穏やかな音楽: 乗り物の振動や揺れは不快感につながることがありますが、それに寄り添うような、穏やかで規則的なリズムを持つ音楽は、かえって心地よさをもたらす場合があります。一定のテンポで繰り返されるメロディーは、聴いている人の心拍や呼吸と同期しやすく、安心感につながることが知られています。ただし、アップテンポすぎるものは避け、ゆったりとしたものを選びましょう。
音楽を選ぶ際は、必ず本人の好みを尊重してください。「これを聴かせたい」という一方的な思い込みではなく、「どんな音楽なら心地よいだろうか」と一緒に考えたり、いくつか提案して反応を見たりすることが重要です。
移動中・乗り物での具体的な音楽の活用方法
では、具体的にどのように音楽を活用すれば良いのでしょうか。
- 移動の少し前から音楽を流し始める: 外出の準備中や、乗り物に乗る直前から穏やかな音楽を流し始めることで、これから移動するという状況への心の準備を促し、リラックスした状態で出発できます。
- ポータブルスピーカーやスマートフォンの活用: ご家庭にあるスマートフォンや携帯音楽プレイヤーに好きな音楽を入れておき、コンパクトなポータブルスピーカーにつないで小さめの音量で流す方法です。車での移動など、比較的環境音がコントロールしやすい場面で有効です。
- イヤホンやヘッドホンの検討: 周囲の騒音が大きい場合や、より音楽の世界に集中してリラックスしたい場合は、イヤホンやヘッドホンを使用することも考えられます。ただし、外部の音が聞こえにくくなるため、安全への配慮が必要です。車椅子での移動中や、座っている時間が長い場合に、状況に応じて検討してください。耳への負担にならないよう、音量は控えめに設定します。
- 景色と一緒に音楽を楽しむ: 窓から見える景色や移りゆく風景に合わせて、ゆったりとした音楽を聴くことで、移動そのものを心地よい時間に変えることができます。
- 無理強いはせず、いつでも止められるように: 本人が音楽を聴きたくない様子であれば、無理強いはしないでください。また、移動中に音楽を止めてほしいという意思表示があった場合は、すぐに止められるようにしておきましょう。本人の快適さが最優先です。
実践する上での大切なポイント
- 事前の準備: 移動や外出の予定が決まったら、どんな音楽を聴きたいか、本人と一緒に話したり、普段の様子から推測したりして、事前にプレイリストを作っておくとスムーズです。
- 音量への配慮: 移動中や乗り物の中では、環境音が変化します。音楽の音量が大きすぎると、かえってストレスになったり、周囲の音(車の音、アナウンスなど)が聞こえなくなり危険な場合もあります。会話ができる程度の、心地よいと感じる音量に調整してください。
- 新しい音楽への挑戦: 慣れ親しんだ音楽だけでなく、新しいリラックスできる音楽を一緒に試してみるのも良いかもしれません。意外な音楽に心地よさを感じることもあります。
- 休息との組み合わせ: 音楽を聴くことと合わせて、休憩を挟んだり、水分補給をしたりするなど、他のリラックス方法やケアと組み合わせることで、より穏やかに過ごせる場合があります。
まとめ
移動や乗り物での時間は、介護される方にとって負担となる可能性があります。しかし、音楽の力を借りて、その時間を少しでも穏やかで心地よいものに変えることは可能です。
大切なのは、本人の気持ちに寄り添い、好みに合わせた音楽を、無理のない方法で取り入れることです。今回ご紹介した方法を参考に、ぜひご家庭での移動時間に音楽を役立ててみてください。音楽が、移動の際の不安や不快感を和らげ、心穏やかな時間を作る手助けとなれば幸いです。