緩和ケアに役立つ:穏やかな時間をつくるご家庭での音楽活用法
毎日の介護生活に「穏やかな時間」をプラスする音楽の力
ご家庭での介護は、日々様々な課題に向き合う中で、心身ともに多くのエネルギーを必要とされます。被介護者の方だけでなく、介護をされる方にとっても、日々の生活の中に少しでも心地よく穏やかな時間を持つことは、心身の健康を保つ上で非常に大切です。
特に、被介護者の方が痛みや不安、気分の変動などを抱えている場合、穏やかな時間を作ることは、それらの緩和にもつながることがあります。音楽は、このような「穏やかな時間」を作り出すための素晴らしいツールとなり得ます。専門的な知識がなくても、ご家庭にあるもので手軽に取り入れられる音楽の活用法をご紹介します。
なぜ音楽が「穏やかな時間」づくりに役立つのか
音楽には、私たちの心や体に様々な影響を与える力があります。例えば、ゆったりとしたテンポや心地よい響きの音楽は、リラックスを促し、心拍数や呼吸を落ち着かせる効果が期待できます。また、懐かしい音楽や本人が好む音楽は、安心感を与えたり、楽しい記憶を呼び起こしたりすることもあります。
これらの効果を通じて、音楽は日々の生活の中に穏やかな空間を生み出し、被介護者の方だけでなく、介護をされる方の気持ちにもゆとりをもたらす助けとなる可能性があるのです。
穏やかな時間のための音楽選び
「穏やかな時間」を作るために適した音楽は、聴く方の好みや状況によって異なりますが、一般的には以下のような特徴を持つ音楽がよく用いられます。
- ゆったりとしたテンポの音楽: 心拍に近いリズム(1分間に60~80拍程度)の音楽は、心身をリラックスさせる効果が期待できます。
- 耳に心地よい響きの音楽: 刺激が少なく、聴いていて心地よさを感じる音色や旋律の音楽を選びましょう。自然音(小川のせせらぎ、鳥のさえずりなど)や、特定の周波数帯を持つヒーリングミュージックなどもこれに含まれます。
- 本人が好む音楽: 過去に親しんできた音楽や、特定の良い思い出と結びついている音楽は、安心感やポジティブな感情を引き出しやすい傾向があります。ただし、あまり感情を揺さぶるような激しい曲や、悲しい記憶と結びついた曲は避けた方が良い場合もあります。
具体的な音楽ジャンルとしては、クラシック音楽(モーツァルト、バッハなどの一部)、アンビエント音楽、自然音、ニューエイジ音楽、あるいは被介護者の方が若い頃に流行した抒情歌や唱歌などが考えられます。いくつかの選択肢を用意しておき、本人の反応を見ながら試してみるのが良いでしょう。
ご家庭での実践方法:いつ、どのように使うか
穏やかな時間を作るために、音楽は様々な場面で活用できます。特別な準備は必要ありません。スマートフォンやCDプレイヤー、テレビなど、普段お使いの機器で十分です。
- 食事中: 食事のBGMとして、小さめの音量でゆったりとした音楽を流すと、リラックスして食事を楽しむ雰囲気を作ることができます。
- 休憩時間: 被介護者の方や介護者が休息を取る時間に、静かな音楽を流すことで、より深いリラクゼーションを促すことができます。
- 寝る前: 就寝前に静かで心地よい音楽を小さく流すと、眠りに入りやすくなる場合があります。ただし、音量が大きすぎたり、刺激的な音楽だったりすると逆効果になるため注意が必要です。
- 特別な活動時: 本を読む、絵を描く、手芸をするなど、静かに集中したい活動の際に、邪魔にならないBGMとして活用することもできます。
- 入浴中: 防水スピーカーなどがあれば、入浴中のリラックスタイムに音楽を取り入れるのも効果的です。
ポイント:
- 音量: 大きすぎるとかえって刺激になり、落ち着かなくなることがあります。会話の邪魔にならない、心地よいと感じる小さな音量で流しましょう。
- 環境: テレビを消し、なるべく静かで落ち着ける環境で音楽を聴くのが理想的です。
- 本人の反応を観察: どのような音楽に心地よさを感じるか、逆に嫌がる音楽はないかなど、被介護者の方の表情や仕草をよく観察し、本人の好みに合わせて調整することが最も重要です。言葉でのコミュニケーションが難しい場合でも、ため息が減る、表情が穏やかになる、手足の力が抜けるなどのサインが見られることがあります。
- 無理強いしない: 音楽を聴くことを強制せず、あくまで「選択肢の一つ」として提供してください。音楽を必要としない時もあることを理解しましょう。
大切なのは、心地よさを共有すること
音楽を通じて穏やかな時間を作る試みは、単に音を流すことだけではありません。介護する方が、被介護者の方の反応を丁寧に観察し、共に心地よい空間を共有しようとするその関わり自体が、安心感やつながりを生み出し、穏やかな時間へとつながるのです。
ご紹介した方法は、医学的な治療に取って代わるものではありませんが、日々の介護生活の中に小さな「心地よさ」や「穏やかさ」を取り入れる手助けとなることを願っています。できることから、少しずつ試してみてください。