緩和ケアに役立つ:イライラやソワソワ感を穏やかにするご家庭での音楽活用法
介護中に起こりうるイライラやソワソワ感について
介護をされている中で、ご家族が理由もなくイライラされていたり、落ち着きなくソワソワされていたりする様子に、どう対応したら良いか悩まれた経験があるかもしれません。これらの感情や行動は、様々な原因によって引き起こされることがあります。
ご本人は、言葉でうまく伝えられない辛さや不安を感じているのかもしれません。また、身体的な不快感や環境の変化、あるいは単調な日常による刺激の不足などが、イライラやソワソワ感として表れることもあります。
介護される方が穏やかに過ごされることは、介護する方にとっても大切なことです。ここでは、音楽がこうしたイライラやソワソワ感を和らげ、少しでも心穏やかな時間をつくるための一助となる可能性についてご紹介します。音楽療法は医療行為ではありませんが、日々の生活の中で心地よさをもたらす手段として活用されています。
なぜ音楽がイライラやソワソワ感の緩和に役立つのか
音楽には、私たちの気分や生理的な状態に影響を与える力があることが知られています。穏やかな音楽を聴くことで、心拍数や呼吸が落ち着き、筋肉の緊張が和らぐといった効果が期待できます。
特に、イライラやソワソワといった感情は、心身が緊張している状態と関連が深いです。音楽がその緊張を解きほぐし、リラックスを促すことで、これらの落ち着かない状態が穏やかになる可能性があります。また、聴き慣れた心地よい音楽は、安心感を与え、過去の穏やかな記憶を呼び覚ますきっかけにもなり得ます。
緩和に役立つ音楽の選び方
イライラやソワソワ感の緩和を目指す場合、どのような音楽を選んだら良いのでしょうか。いくつかのポイントをご紹介します。
静かで穏やかな音楽
テンポがゆっくりで、メロディーがなめらかな音楽が適しています。激しいリズムや大きな音量の音楽は、かえって刺激となり、落ち着かない気持ちを助長する可能性があります。
- クラシック音楽: バッハやモーツァルトの緩徐楽章、サティのジムノペディなど、静かで穏やかな曲がおすすめです。
- ヒーリングミュージック: 自然音(波の音、雨音、鳥のさえずりなど)や、楽器の音色(ピアノ、ハープ、フルートなど)を中心とした、リラックス効果を目的とした音楽です。
- 環境音楽: 特定の空間や状況に合わせて作られた、邪魔にならず心地よく聴ける音楽です。
聴き慣れた、安心できる音楽
ご本人が若い頃や元気だった頃によく聴いていた音楽の中で、穏やかな気持ちになれる曲があれば、それを活用するのも良い方法です。思い出の音楽は、安心感や肯定的な感情を引き出しやすく、イライラやソワソワした気持ちを落ち着かせる助けになることがあります。ただし、刺激が強すぎたり、悲しい思い出につながる曲は避けた方が良いでしょう。
(補足)避けた方が良い音楽
原則として、以下のような音楽はイライラやソワソワ感を助長する可能性があるため、避けることをおすすめします。
- テンポが速すぎる、リズムが複雑すぎる音楽
- 音量が大きすぎる音楽
- 歌詞が攻撃的であったり、ネガティブな内容を含む音楽
- 本人にとって不快な記憶や感情を呼び起こす可能性のある音楽
音楽をどのように活用するか:実践のヒント
音楽を選んだら、次に大切なのは「どのように」活用するかです。自宅で手軽にできる方法をいくつかご紹介します。
BGMとして日常に取り入れる
特に理由なくソワソワしている時や、落ち着いて過ごしてほしい時間帯に、小さめの音量でBGMとして穏やかな音楽を流してみましょう。リビングや居室など、普段過ごす空間に心地よい音楽があることで、部屋全体の雰囲気が和らぎ、ご本人の気持ちも自然と落ち着く可能性があります。
特定の状況に合わせて流す
イライラやソワソワ感が起こりやすい特定の状況(例:食事や入浴の前、薬を飲む時間、特定の時間帯など)がある場合は、その少し前から音楽を流し始めることを試してみてください。音楽が、これから起こることへの心の準備を促し、スムーズな移行を助けることがあります。
音楽と一緒に活動する
もしご本人が乗り気であれば、流れている音楽に合わせて手拍子をしたり、穏やかなリズムに合わせてゆっくり体を動かしたりするのも良いでしょう。音楽を「聴く」だけでなく、音楽と一緒に何かをすることで、気分転換になり、イライラやソワソワから注意をそらす効果も期待できます。無理強いはせず、ご本人のペースに合わせて行うことが大切です。
聴く環境を整える
音楽の効果を最大限に引き出すためには、聴く環境も大切です。テレビや他の音の邪魔が入らない静かな環境で音楽を流すのが理想的です。音量は、会話ができるくらいの「小さめ」を心がけてください。特別なオーディオ機器は必要ありません。スマートフォンやCDプレイヤーなど、ご家庭にあるもので十分に実践できます。
音楽活用の際の注意点
音楽は万能薬ではありません。音楽を流しても、イライラやソワソワ感がすぐに改善されないこともあります。また、ご本人の体調や気分によっては、いつもは心地よい音楽が、その日は不快に感じられることもあります。
- ご本人の反応をよく観察する: 音楽を流した時の表情や仕草、声かけへの反応などを注意深く見守りましょう。心地よさそうにしているか、逆に不快に感じていないかを確認します。
- 無理強いはしない: 音楽を聴くことを嫌がったり、特定の音楽を拒否したりする場合は、すぐに中止してください。ご本人の気持ちを尊重することが何よりも大切です。
- 原因を探る努力も続ける: イライラやソワソワ感の背景には、身体的な痛みや不調、排泄のサイン、喉の渇きなど、具体的な原因が隠れていることもあります。音楽はあくまで緩和ケアの一助として捉え、これらの原因を探る努力も継続してください。
まとめ
介護されている方に見られるイライラやソワソワ感は、ご本人にとっても介護する方にとっても辛いものです。音楽は、こうした心身の落ち着かない状態を穏やかにする可能性を秘めた、ご家庭でも手軽に実践できる緩和ケアのアプローチの一つです。
静かで穏やかな音楽や、ご本人がかつて聴き慣れた安心できる音楽を、小さな音量でBGMとして流したり、特定の状況に合わせて活用したりすることで、心穏やかな時間をつくるサポートができるかもしれません。
すぐに効果が出なくても、焦らず、ご本人の反応を見ながら様々な音楽や方法を試してみてください。音楽が、日々の介護生活に少しでも心地よさをもたらし、ご本人と介護される方の両方にとって穏やかな時間が増えることを願っています。